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日本歯科新聞
掲載日
2023/10/24

【日本歯科新聞】さじかげん【番外編】「見えぬ敵」

鰐淵 正機
(和田精密歯研監査役)

 監査業務に従事するため、全国55カ所の営業所を渡り歩く一環で、水戸へ行くことがある。駅からほど近くに立派な城址と江戸後期最大規模の藩校といわれる弘道館がある。朝夕の静かな時間に訪れると、幕末水戸藩の剛毅な空気がいまだ充満しているかのように感じる。
 しかしここで驚かされるのは、大小を腰にさし、髷を結う時代に、藩全体で天然痘やコレラといった感染症の予防対策を推進していたという歴史の資料である。これを指導した藩医、本間玄調先生の像が弘道館横の歩道にある。当時は、「罹患=高確率の死」だったに違いない。
 3年前のCOVID─19感染拡大当初、収束するまで何年もかかると耳にして、正直、そんなに大変なことなのかと思った。新たなウイルスの出現やワクチンに対して無知であるがゆえの愚かさだった。ごく一般的な予防対策と注意だけで日々を暮らしていたが、運よく感染を免れたことや免疫力とのバランスで成立した結果でしかない。
 生命に害を及ぼす感染症の知識を、職場の皆は持ち合わせているだろうかと不安になる。まずは歯科医療の現場に赴く外交担当者の知識向上から始めたい。
 24年前に当社が第2期インプラント事業を始動した折、ご教授いただいた先生から「オペで滅菌対策を徹底して行うのは、自分の感染予防のためではない。われわれから患者さんへの感染を防ぐためだ」と訓示された。感染に対する自分の考え方が逆であったことを恥じた。
 ようやく社会は正常化し、歯科団体の催しや学術大会も活発さを増している。しかしここへきて、前向きな気持ちに油断が生じたのか、自身がコロナに感染し、一週間ほど臥せってしまった。このコラムを書きながら面目ない。
 「そなたには見えずとも敵は今も横にある」、サムライの先生はそうおっしゃるに違いない。
(W/W)

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