鰐淵 正機
(和田精密歯研監査役)
北海道十勝の清流、歴(れき)舟川(ふねがわ)では砂金が採れ、実際に採取したものを見せてもらったことがある。河川が嵐で荒れた後に採掘できるのだと、教えてくれた知人がニヤリと笑う。小瓶の中の砂金はわずかだったが、自慢気な顔がよかった。
金は太古から人に近い存在の金属の一種だろう。加工性が高く、金歯の歴史を探ってみると、とても興味深い。歯科技工士はブローパイプでトロリと溶かされた金の湯を、タイミングよく鋳込む感覚をよく知っている。過去には、ゴールドマージンポーセレンという製品があり、いわゆるメタルボンドの歯頚部約1㍉に純金を鋳接するのだが、これにはかなりの工夫を要した。純金の鋳造など今となっては当社技工部でも経験者はごくわずかだろう。
このところ金の取引価格が上昇し、過去最高の水準だという。歯科補綴でも影響をまともに受けている。今年に入り、自身の治療で大臼歯にゴールドクラウンを入れたが、技工料金よりも金属代が3倍ほど上回り、思わず納品書を二度見した。ゴールドは生体親和性がよく、柔らかく、補綴物としての価値は今なお健在だ。自身が小学生のころには、村の長老ともいうべき老人の上下前歯12本全てに金冠が入っていて、その翁がニヤッと笑った時の衝撃は今でも忘れられない。当時、金は富の象徴でもあったのではないだろうか。
先日、プロゴルファーの方の補綴技工を担当した。調整が終わった上下のゴールドクラウンの研磨作業を横に座ってずっとのぞき込んでいる。そして、「キレイですね。僕も大会前は徹底的にクラブを磨き上げるんです」と言った。
金の輝きには、人を魅了する美しさがある。あらためてその価値を再認したくなる今日このごろだ。撤去した自分の金冠をそれなりの価格で買い取ってもらったことでもあるし。
(W/W)