印象を精度中心に第一に考えてしまう傾向が強いように思います。そういうこともあってか、多くの臨床家はシリコーン・ラバー等での精密印象が大切と考えています。
歯科理工学的に桁違いの精度が示されれば、無視することはできません。
しかし、印象からはじまって、その製作の精度を考えると、印象だけ良くてもトータル精度からするとあまり意味を持たないし、ひとたび患者さんにその義歯が渡ってしまったら、ある種の劣悪な環境下にあり、精度を維持できないことになります。そして、その意味がないと気付かされることがあります。
従って、印象材はアルジネートで充分であると考えます。表現としては「アルジネートで良い」というのではなく、「アルジネートが良い」です。
アルジネートは安価で日常多用しているので、操作に慣れており、材料特性も感覚として知っているというところにメリットがあると考えます。
また、混水比を変えてもその精度が変わらないことが最大のメリットです。
この材料特性により硬さをコントロールでき、印象を採る目的別に硬さを変えることが可能です。他の材料では難しいという意味で、アルジネートの優位性を認めます。
実際の臨床では精度のことだけではなく、いかに形を採るかということですが、経験から申し上げて、「大きく採って、大き過ぎない形で仕上げる」ということが大切と考えます。
大きく採るには、硬さによって周辺軟組織を押し退けて拡げて採る方法が簡便で確実です。それには、硬さが有利に働きます。
私はトレーも開発しています。ヒューマントレー(HUMAN TRAY)というもので、有歯顎用のトレーを基本として、改良して作りました。(文末に補足説明)
一般的にはトレーの形状で顎堤形状に合わせて採るという考え方です。それゆえラウンド状の各個トレー的形状を良しとします。
しかし、実際の臨床は左右の顎堤が全くの対称ということはないので、結局大きなもので採ることになります。その意味では顎堤をトレー内に入れるという考え方をしなければならず、大きなもので採ることになります。
ヒューマントレーはボックスフォームなので、感覚的には向いていないと思われるかもしれませんが、実際には有利です。
結論として、印象は、ヒューマントレーを用いて、硬練りで、山盛りにして大きく採って、水をかけて採る!大きくは作らない!です。この水かけは印象精度には問題がなく、印象面が気泡も入りにくくキレイにできるメリットがあります。
繰り返しますが、大きく採ってスタートを切るということが短時間でするために合理的と考えます。
印象はそこそこで良いという考え方をしている訳ではないのですが、どうも私は印象にはあまり熱心ではないと思われています。ちなみに、金属床でもこの手法でおこなっているということは、私にとってアルジネートの評価は高い証といえます。
この印象法で義歯を作るのですが、より理想的な義歯を作るのであれば、この印象をベースに各個トレーを作り、そして精密印象で模型を作り、本印象します。
更に上級のものをご希望であれば、この延長で義歯を作り、その義歯を用い機能印象して作ることも考えられます。6ヶ月という保険制度の縛りをクリアーさえすればこの手法で保険義歯を作ることも可能と思います。比較的短時間でできますから。