鰐淵 正機
(和田精密歯研常務取締役)
2020年はコロナ一色で過ぎていった。その抜け道はまだしばらくは見えない状況にある。しかし、我々技工所にとっては新たにCAD/CAM前歯やチタンFMCが保険収載される動きがあった。
デジタルによる製造技術の開発は30年ほど前に始まったが、当時の話はあまり知られていないのではないか。世間に広く認知されるまでには、時間もかかるだろうし、さまざまな要素も関係してくる。後に優れた業績と認められても事の始まりが知られていないケースはよく見られる。
開発当時のデジタル技術で製造されたチタン冠はシンプル過ぎて味気ない。おそらく当時の感覚からすれば、「わざわざ難しい方法で作らなくても、いつも通りにすりゃいいものを……」ではなかったか。それでも、この研究に携わった先生方やさまざまな企業の技術者が諦めずに継続して取り組んだからこそ、今日もラボでデザインソフトを使い、加工機が稼働できるのだ。
「継続は力なり」といわれるが、これは現代にこそ大切な言葉だ。歴戦のプロ棋士ですらAIに負かされる時代、今後ますますデジタルテクノロジーは進化を続けるだろう。
我々の未来は明るいか。それにはこの先、さまざまな業種、いろいろな分野の技術に視野を広げておく必要があるだろう。業態は進化する。
すでにインプラント補綴のオペ用ガイドが製造可能であるならば、将来は外科用治具なども視野に入る可能性があるのだろうか。現時点で「まさか……」と感じられることも案外、近いところにあるのかもしれない。30年前にデジタルで歯を創ろうとした研究者の熱意に敬意と感謝の意を表し、同様に可能性を求めて挑戦をやめない独創的技術の確立こそが存続のカギだ。
いち早くコロナ禍が終息し、明るい未来へのスタートの春となることを心より祈る。
(W/W)