４月５日、福島県棚倉町でご開業の塩田博文先生の訃報に接した。数年前に病に伏された後、ご回復されたと伺っていたのでショックが大きかった。

塩田先生と当社の関係は30年以上に及ぶ。先生の「軟化パラフィンワックス臼歯部咬合法」（通称「軟パラ法」）を紹介する講演会や、実技コースを全国各地で開催したり、ラボサイドに必要な義歯づくりのコツを教わったりした。「高すぎず 大きくもなく まん中を バランス良くが、歯(し)合(あ)わせの道」。

塩田先生は開業医でありながら、義歯に関するご著書が多い。20年前、当社社員だった堀敏泰氏、山口敦氏の両名が軟パラ法の実技研修に併せて技工の作業マニュアルを完成させた。それが後に先生の監修で、『塩田博文の総義歯臨床自習書』として出版された。身近な先輩たちが手掛けたものだけに、特に思い出深い。

過去に塩田先生の診療所へ何度か訪問したことがある。東日本大震災の発生翌日に、水と食料を持って駆けつけたが「私たちは大丈夫。足りない方々に届けなさい」と受け取らず、逆に地元の食堂でラーメンをご馳走になった。逆支援状態だ。また、診療を切り上げた後、近所の居酒屋で「かの高名な野口英世先生の母親の名はシカ。歯科とかけて〝さじかげん〟のネタにどうですか」と、笑いながらぐい吞みを干したりもした。

最後に話したのは１年前。「還暦という人生の一区切りで歯を28本にリセットしよう」という塩田先生提唱の６０２８運動に関する意見交換だった。「義歯でもインプラントでも、機能する歯が残っていれば健康によい上、クリニックもラボもよい仕事ができて、みんなが丸ーく収まるではないですかぁ」。

先生のまぁるいお顔の笑顔を思い出す。塩田先生のこれまでのご指導に心から感謝し、謹んでご冥福をお祈り申し上げる。

（Ｗ／Ｗ）