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【日本歯科新聞】さじかげん(141)「鬼気迫る義歯」

 1980年ごろの話である。

 義歯の治療費3千万円と記された価格表を見た。むろん日本国内の話であり、その義歯は「無口蓋義歯」という常識では考えにくいもので、その治療を施していたのが「医療は人間の祈り」と説く大阪の故・T先生だ。義歯づくりに対し非常に厳しい考えを持ち、にわかには信じられないと思うが、印象作業に10時間をかけていた。指先の感覚が命と言い、毎晩寝る時には手袋をはめていたという。

 常軌を逸した義歯づくりへの真剣さはもはや芸術の域だ。義歯づくりのために死んでも良いというT先生。それだけに患者に求める厳しさも持ち合わせていた。先にお金をちらつかせる人、義歯の完成をせかす人、歯科医師を信じない人、このような患者の場合、治療を断ることをあらかじめ契約書に記して署名をとる。患者と心が通じ合わなければ治療は施さない真剣勝負、命がけの義歯づくりなのだ。

 インプラントに対し、昨今、一部マスメディアが報じる歯科事情において、もしインプラント体の使い回しが事実だとすると、一方が相手をだまし、一方が相手を疑うような状況はT先生のいう「医療は人間の祈り」から大きく逸脱する。また、現代社会は消費者第一主義、歯科に置き換えれば患者第一主義の風潮が強く、これが強くなり過ぎると問題が発生した時の被害者意識も高くなり、本来の医療の在り方とは別の方向に走りだす。

 従って医療には患者も真剣に向き合わなければならない。自分の言い分ばかりを通そうとせず、主治医の指示や忠告にも素直に耳を傾けるべきだ。治療費の高い安いだけをあげつらうのは、医療の価値を自分で決めつけてしまうことにほかならない。実際に両者が真剣に向き合いゴールまでたどり着き、幸せになった患者の笑顔を知っている。歯科医療は歯科医師と患者を信頼で結ぶ二人三脚なのだ。いくら支払ったのかはあえてここでは述べないでおこう。(W/W)

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