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【日本歯科新聞】さじかげん【番外編】 「わきまえる」

鰐淵 正機
(和田精密歯研常務取締役)

 自然災害や犯罪の犠牲となった遺体の検視で歯科の治療痕が身元判明の決め手になる場合がある。最近ではインプラントシステムのメーカーまで特定されて、技工所に警察から問い合わせが来るケースもみられ、これも時代なのかと思うが、見知らぬ他人とはいえ、切ない気持ちになる。

 40年前、村の隅にある火葬場で荼毘に付された祖父の骨を拾いに行った時、熱で焼かれた金属床のプレート部分が灰にまみれて落ちていた。それは歯科技工士だった母が義父に作った入れ歯の一部で、それを見た父が「親父はこの世に入れ歯を置いて逝ったか」とぽつりとつぶやいたのが印象的だった。

 法医学で司法解剖や行政解剖を行う医師は、検視結果を遺族、検察、弁護士、保険会社といった異なる立場に伝える技術が求められ、医師の中でもとりわけ高いコミュニケーション能力が必要と聞いたことがある。その中で、医師が言った「仕事をうまく進めるには分をわきまえることが大切」との言葉は今も心に残っている。謙虚と尊重が入り交じったような「わきまえる」という姿勢はラボでもチェアサイドでも大事で、ここを間違えると相手との関係がギクシャクしてしまう。ビジネスではWINWINという言葉が使われるが、互いの利という観点に心の在り方や姿勢も共有されると関係性は長く継続されるに違いない。

 日本発のグローバル企業の働き方改革をテーマに取り上げた経営セミナーに参加して、既に国籍、性別、世代による価値観の差という課題に取り組んでいる実態があるのを知った。そこで「互いの尊重と理解」について繰り返し述べられているのを聴いて、わきまえる姿勢が大事という基本は将来も同じだと安心できた。

 祖父は仏様の前に出るのにわきまえて自慢の入れ歯を灰に隠したのだ。そう思えば残された古い義歯も納得するだろう。
(W/W)

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