鰐淵 正機
(和田精密歯研常務取締役)
もう昔の話だが、歯科技工士の離職率が就業5年以内に7割以上という衝撃的な数字を耳にした時は驚いた。しかし実際には、別の歯科技工所に就職する場合もあるだろうから、ここまでの数字ではないと考えている。歯科技工の仕事が好きだという歯科技工士は多いので、離職したとしても大いに悩んだ結果だろうというのは想像にたやすい。
専門性の高い歯科技工所では技術的な実力が求められ、保険製品の製造を主とする歯科技工所は生産効率が求められる。いずれにしても自分の能力を伸ばさないといけないのはどんな仕事でも同じだ。
ある地方都市の企業の例だが、社員が会社に求めることの第一位が「食事の補助」という項目があり、興味を引いた。会社には充実した社員食堂があって、400円でおいしい定食が食べられる。ご飯は飯盛り器という機械で自分に合わせた量が選択できて、会社が社員の健康にも気を配っているのが伝わってきた。昼時、にぎやかな社員食堂の映像はとにかく笑顔が印象的だった。
また、過去に勤めた社員の名前を建物の壁にすべて書き込まれている会社の例もあった。いかに人財を大切にしてきたかが分かる。その企業は、月間表彰で毎月頑張った社員を食事会に招待する仕組みや有給休暇を利用して仲間同士で社員旅行をした場合、旅費の何割かを負担する規定にもなっているという。
要は社員が会社を好きになる仕組みを工夫しているのだ。その企業のトップは、勤めてくれた方々の人生をお借りして現在があると言い、番組ではこれらを「健康経営」という言葉に置き換えていた。このような福利厚生の充実は明日から急には構築できないかもしれないが、人手不足の日本では同業間でも人財の取り合いになるのだから、それぞれの工夫が必要になる。
ただし、業界自体が魅力的でなければ、人財は定着しないだろう。
(W/W)