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【日本歯科新聞】 さじかげん【番外編】「歯に祈る」

鰐淵 正機 
(和田精密歯研常務取締役)

 球児たちの一球入魂が多くの人の胸を打つ高校野球、しかし新型コロナウイルス感染症の影響で、今年は残念なことに甲子園大会が春夏ともに中止となった。

 当社は幅1メートルほどの欅の板に「一歯入魂」と刻印した額を掲示している。書道家の先生が書いてくださった書をスキャンしてレーザー加工したものだ。数十枚もの板材に同じ加工が施せるのは、デジタルテクノロジーならではの妙技と言えるだろう。

 一歯入魂は技工士としての仕事への姿勢を表している言葉だが、治療を通じて患者さん自身の歯を大切にする思いに時折、圧倒される。

 例えば、専門の治療を受けるためにわざわざ一家で引っ越す家族。日本人に比べて海外の方は補綴物への要求をはっきり言葉にする傾向が強く、旋盤のような精密加工をする職人さんは左右の歯の対称性をミクロン単位で要求する。絵画を専攻される方の色調感覚の鋭さや、声楽家の方は、発音はもちろん口を閉じた時の歯と唇の触れ具合にまでこだわる。銀座のホステスさんの審美の追及には感服する。何よりそれぞれの方が自分の理想形をイメージできているから素晴らしい。

 これらの治療で技工士がチェアサイドに同席する利点は、情報量が品質に直結するということだろう。技工士の評価は自分の技術に加え、患者さんが求めているものを主治医と一緒に確実に再現できるかだと思う。

 技工士の仕事は一つの症例の補綴物が完成すれば一区切りがつくが、主治医はそこからがメンテナンスのスタート。さらに患者さんはその歯と長い付き合いになる。

 歯と健康の関係性が広く知られるようになった昨今、そして今回のコロナ禍。今後は口腔衛生を基準に自身の歯と健康を考えることが基本となっていくだろう。誰もが生きるに必死、「歯に祈る」である。
(W/W)

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