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【日本歯科新聞】さじかげん【番外編】『歯は何を創る』

鰐淵 正機
(和田精密歯研常務取締役)

 エビデンスという言葉を初めて知ったのは、オッセオインテグレーションタイプのインプラントの補綴を学んだ時期だった。科学的根拠に基づく医療は医師や患者にとって安心だが、仮に根拠がはっきりしなくても不思議と心が納得する言葉がある。「食べ物が体をつくる」「食べ方は心をつくる」などがそれで、言い得て妙ではないか。

 児童文学のノーベル賞と呼ばれる国際アンデルセン賞を受賞した角野栄子さんがテレビ番組の中で「子供のころに父親から『見えない世界なんてないと思ったら大間違い』と教えられた」と話していた。どうりで彼女の描く物語の世界には精神的な奥行きがあり、作品は夢にあふれ、心揺さぶられる。そう考えると、人間にとって目には見えない心の世界、すなわち精神的な部分が占める割合は想像以上に大きいのかもしれない。

 一方で、今やデジタル技術を活用すると顎関節を3D画像に再現でき、下顎の動きと一緒に上下の歯牙の接触状態を立体で見られるなど、分かりにくかった咬合の可視化というところまで研究が進んでいる。

 歯は人が生きていく上で必要不可欠なもので、食べ物の消化を助け、体のバランスを保ち、発音などに加え、近年は全身の健康への影響や脳へのはたらきについても研究されている。考古学の最新の分析技術では、歯でその人物の生まれた地域や食べてきたものまで分かるといわれている。

 人間には「見える世界」だけでなく「見えない世界」も確かに存在する。そうした中で、歯は何を生み出すのかといえば、その答えは「人生」、つまり人を創ることにほかならない。

 歯科技工士に必要なのは技術の向上と同時に見えない世界である歯のはたらきという目的の向上で、歯のはたらきがもっと明らかになれば自分たちの仕事にも、より大きな意義を見いだせるのではなかろうか。(W/W)

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