鰐淵 正機
(和田精密歯研常務取締役)
「コロナ禍」「医療崩壊」という言葉すら日常という感覚……、これこそが本当の意味での非常事態ではないか。医療現場の苦労は当事者でない者の想像をはるかに超えているのだろうが、感染予防と社会経済のバランスは余程難しく、現在の日本の混乱ぶりがそれを表している。
国会議員の政治パーティーの講演では感染症対策の法改正や規制緩和が謳われるが進展を感じない。しかし一方で、コロナ禍における新しい生活スタイルが構築され、今までなかった分野で業績を伸ばすというニュースに触れることもある。さまざまな業態での工夫、発想の転換がそこにあるのだろう。
ご多分にもれず、このところ増えた「おうち時間」を利用して近代歯科の黎明期の資料を読んだ。時代は明治初期で、舞台は横浜。エリオットというアメリカ人歯科医師の元に松岡萬蔵という歯科技工士(師)がいて最新のゴム床義歯を作製していたとある。従来の木製義歯からすれば画期的な義歯だったのだろう。また日本の歯科医師免許第1号となる小幡英之介先生もここで研鑽を積んだとあり、当時の歯科医師と歯科技工士の関係性に想像の世界が広がる。
現在の医科でみられる入院加療中のリハビリには理学療法士、作業療法士、言語聴覚士などの専門職が加わっているように、歯科の今後を見つめるならば、例えば訪問診療と歯科技工士の法的な在り方や、補綴技工全般におけるプランニング提案といった分野でより専門的にかかわりが必要となるだろう。義歯づくりは技工士の経験とセンスがものを言うし、デジタル化はチェアサイドとラボサイドのスキルの融合がまだまだ必要な段階だ。
しかしまずは自分たちの感染予防として、日常の慣れ、油断に注意し正しい知識を持つことが目の前の医療現場への貢献となることは間違いない。
(W/W)