日本顔学会が創立20周年を迎えた。発起人であり初代会長の故・香原志勢先生とは生前、当社社報「希望」の対談等で何度かお会いした。
近刊の日本顔学会誌Vol.15に載っている追悼文に「会長は顔学会の帽子でもあるから、あまり顔を出しすぎたり喋りすぎないほうがよくないですか?」と、先輩会長として、後輩を教え導く香原先生の言葉が引用されていた。顔学会のトップを帽子にたとえ、キャップとしての身の振り方を語っていらっしゃる先生の姿勢に、生前のご本人を知る者として脱帽した。
各地で名士の講演を聴いていると、国会議員をはじめとした政治家の話は言葉巧みに簡潔でほれぼれするくらい明るく楽しい内容。それらを自分なりに分析するうちに、数年前、一般の民間団体で喜ばれるあいさつの言葉に至極単純な共通点があることに気付いた。
それは「うれしい」、「悲しい」、「悔しい」という三つの言葉が入っていることで、この三つがあることによってあいさつに人間味が出て、聴衆が耳を傾けると分かったのだ。
これらの言葉は「今日はよい天気でうれしい、元気が出ますね」や、「悲しいことに試験に滑って落ち込んでいる」、「たった一言つけ加えてくれればと、悔しく思った」など、日常のあいさつにもよく使われる。人間の気持ちを率直に
表現すれば、言葉を必要としないアイコンタクトと同じで感動をストレートに伝えることが可能となる。意思の伝達でそれは重要な決め手となる。
日本顔学会は、写真技術やITの応用でこの20 年間たゆまぬ進歩を見せて、「顔の百科事典」が刊行された。香原先生の“会長は顔学会の帽子”というお言葉は、顔学研究をひたむきに続けられる研究者たちの未来を展望する大きな意味を持つものかもしれない。
顔学の研究から歯に関する理解が深まるという考えもあり得るので、解剖学者のご意見を伺いたいものである。