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日本歯科新聞
掲載日
2024/03/05

【日本歯科新聞】さじかげん【番外編】「繕いの勘所」

 デパートの催事場で漆器工芸の実演販売を見た時、職人さんが言った「手作りの品は修理がきくから長く使える。機械で作るものは修理できない」という言葉が心に残っている。意味はよく理解できたが、折しも歯科技工にデジタル技術が普及し始めたころで「そんなに機械のこと悪く言うなよ」とも思った。

 先日、10年近く愛用している腕時計をメンテナンスに出して驚いた。部品の在庫があったため、裏蓋を開け中身をすっぽり新品に交換したというのだ。時計職人が不足する中、分解組立で調整するより、納期も早くコストも安く済むそうだ。機械生産の恩恵を得て、費用は新品価格の5分の1ほどで済んだ。

 私には忘れられない修理の事例がある。上顎総義歯のコバルト床。正中部分の床に入った1㌢ほどのひび割れを埋める簡単なもので、その部分を即重で埋めて納品した。しかしその後、「義歯が脱離して使い物にならない。修理過程で何かあったのか」という連絡があった。

 ひびを埋めただけなのに吸着が落ちた。結局、原因が分からず最初から全て作り直すことになり、大変な迷惑をかけた。そして、ラボには疑問が残った。

 後年、各地で義歯の講演をされる先生から一つのヒントを得た。曰く、正中破折は何かと注意。正中にひびが入った段階で、義歯が微妙に歪んでいるかもしれない。そのまま修理すると、以前とは状態が変わる可能性がある、とのことだった。経験豊富な先生の言葉が腹に落ちた。

 物づくりの修理に必要なのは、経験から得た知識と技術。以前、ベテラン歯科衛生士の方から、補綴後に発生した問題に的確に対処できる院長先生と歯科技工士がいるから安心して患者さんの相談にのれると打ち明けられたことがあった。こんな些細な情報でも、若い歯科技工士の臨床に役立てば幸いだ。
(W/W)

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